アニッシュのオリンピアード戦の自戦解説より
→ [ アニッシュの自戦記]グランド・マスターの手は疑問手も勉強になります!
アニッシュの解説は、若者らしく率直だがレベルが高いです。特に エンドゲームは、その知識がないとアマチュアは理解が難しいでしょう。 たとえば、次の局面で、エフィモフの手 h4?? が敗着とありますが、しかし、 なぜ敗着なのか、なかなかストンと落ちません。
理解しにくいところは山田弘平が補足解説をつけました。今回の解説はかなり高度なので理解できなくても恥ずかしくありません。これはもう、試合の鑑賞というより、 むしろチェスそのものが持つ奥深さをはかっている気がします。
グランド・マスターの手は疑問手も勉強になります!
ビショップ vs. ポーンエンディング
以下、太字茶色がアニッシュの解説、青色が山田弘平の解説。棋譜は、太字紺色がメイン・ライン、青色がサイド・ライン。
図1 白番 | |
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黒:アニッシュ |
白:エフィモフ | |
局面は、黒 43... h5!? まで |
44.h4 ??
(アニッシュ) この手は悪手だ。ポーンをビショップと同じ色に進めたから? いやいや、 そうではない。後の方で、僕自身もそのポジションになるまで見えなかったある理由があるからだ。
【アニッシュはあっさりと書いているが、以下の解説をすべて理解するのは簡単ではない。 かなりの棋力とエンドゲームの知識が必要である。そこで、これ以降の解説には理解の助けになるような、 補足を付け加えておく。このエンドゲームをより深く理解したい方は、エンドゲームの専門書、 たとえば「Dvoretsky's Endgame Manual」の第4章を読むと良いだろう。 まずは次の解説で、白がどのような筋でドローを狙っているかを理解して欲しい。(山田弘平)】
【 44.h3!? でも互角。この解説は省略】
(図1から変化で) 44. e6+! Ke8 45. e7 Bb4+ 46. Ke6 Bxe7 (変化図1)
変化図1 白番 | |
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局面は、黒 46... Bxe7 まで |
【白は e ファイルのパスポーンをあっさり捨ててしまった。 しかしその代わりに a のパスポーンを進めるための手を稼ぐことができた。】
(変化図1から) 47. a5 Bc5 48. h4
【黒のhポーンを固定しておく。キングサイドの黒ポーンがすべてなくなれば白はドローを取れることに注意。】
48... Be3
【 48... Bf2 には 49. a6! が好手。49...Bxg3 には 50.a7 があるので、黒はポーンを取れない。
【白のポーンがここまで進めたのは、44.e6! でポーンを犠牲にした効果である。】
49. a6 Bc5 50. Kf5 Kf7 51. g4 hxg4 52. Kxg4 変化図2
変化図2 黒番 | |
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局面は、白 53. Kxg4 まで |
(アニッシュ)これこそ僕の相手がねらっていたドローのポジションだ。
【わかりやすいようにもう少し進めてみよう。 】
52... Kg6 53. h5+ Kh6 54. Kh4 Ba7 55. Kg4 Bf2 (変化図3)
変化図3 白番 | |
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局面は、黒 55... Bf2 まで |
【白の狙いはキングを g4 と h4 のマスで往復することだが、 それを防ぐ 55… Bf2 には、】
56. Kf3 !
【の好手がある。ビショップ取りなので逃げるしかないが、 そこで Kg4 と戻ればドロー。 a のパスポーンが黒のビショップを釘付けにしていることに注目しよう。 このあと出てくる変化でも、 白はこの局面を目指していることを覚えておいてほしい。】
(図1で 44.h4 から) 44... Ke8 45. Ke6 (図2)
図2 黒番 | |
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黒:アニッシュ |
白:エフィモフ | |
局面は、白 45. Ke6 まで |
(アニッシュ)ここまで来てようやく勝ち筋が見えた。実際、2通りも勝つ手があった!
(図2から) 45... Be1
【先ほどの補足解説で、白が狙っていたドローの変化と比べて欲しい。 白は e のパスポーンを持っている代わりに、 a のポーンが進んでいない。このため、 黒は a のパスポーンをビショップではなく、 キングで止める手が間に合っている訳だ。 そのため白は黒ポーンを食い尽くすことができない。】
(図2から変化で) 45... Bd2
(アニッシュ) ・・・も華麗な手だ。
46. Kf5 Kf7 47. e6+ Ke7 48. Kg6 Kxe6 49. Kxh5 Kf5! (変化図4)
(アニッシュ) ・・・メイトねらい。(^_^)
変化図4 白番 | |
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局面は、黒 49... Kf5! まで |
【メイトを防ぐには、】
50. g4+ Kf6 51. g5+ Kf5 52. g6
【 ・・・くらいだが、】
52... Kf6
【・・・でツークツワンク。以下、】
53. Kg4 Kxg6 54. h5+ Kh6
【 ・・・と進んだ局面と、白が狙っていたドロー局面を比べて欲しい。 a ポーンが進んでいないおかげで今度は、】
55. Kh4 Ba5 56. Kg4 Be1! (変化図5)
変化図5 白番 | |
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局面は、黒 56... Be1! まで |
【・・・と、 h4 のマスを奪うことができる(今度は 57. Kf3 がビショップ取りにならない!)。 ここでも a ポーンの進み方のちがいが効いてくるのだ!】
なぜ白の 44.h4 ?? が悪手か
本譜は、45... Be1 以下、アニッシュはこのゲームを見事に勝ち切っています。さて、最初にもどって、 なぜ白の 44.h4 ?? が悪手かお分かりになったでしょうか?
変化図3と変化図5をもう一度よく見比べてみていただきたいのです。その差が h4 を悪手にしているのです。しかし、もちろんある変化手順の中では h4 は黒のポーンを固定する好手なのですけれど・・・!
この解説は、アニッシュの公式サイト日本語版の動くチェス盤つきですべて見ることができます。 → [ アニッシュの自戦記 ]