[ PDF版
>>>
] [ 駒が動く [
Viewerチェス盤
] でご覧ください]
チェストレーナー
その最終局はイスラエル出身のIM、Yochanan, Afek (2299) (ヨハナン,アフェック)に白番で当たりました。彼は現在チェストレーナーとして、オランダで活動しています。最終日に突然出現した会場の書籍販売コーナーでは、彼の最新刊が売られていて、それを手にした子供たちがはしゃいでいました。それを見て僕も試合後にその本を買いに行き、著者にサインをもらったのでした^^;
その本とは、New In Chess社から2011年に出た「Invisible Chess Moves」という本です。Emmanuel NeimanとYochananによる共著で、「盲点になりやすい手」を集め、どうしてそのようなミスが起こったかを考察していく、ちょっと変わったタクティクスの本です。こういった本はマニアックになりがちな部分がありますが、この本は非常にわかりやすくまとめられており、実戦で見つけづらいタクティクスを集めた練習帳として使えるので、興味のある方はぜひ読んでみてください。
押せ押せムード
ゲームの方は、序盤から虚々実々の駆け引きの応酬といった感じで、お互いに自分が良い手を指すことよりも、相手に良い手を指させないことに重点を置いて指したようなゲームになりました。しかし中盤以降、こちらのピースの働きが良くなり、押せ押せムードで迎えたのが次の図でした。

Yamada-Yochanan 白番 26...Bxb2まで
図は黒が b2 のポーンをとったところです。僕の持ち時間はここで20分をきったくらいだったと思いますが、ここが本局最大の勝負どころでした。
27.Rad1?
これが当然に見えてチャンスを逃した一手です。勝ちに行くなら27.Ra7! という手がありました。この局面、白としてはなんとか c7 のパスポーンを活かした攻撃をしたいところです。僕の考えはシンプルでRd1~Bd6とやって、ルークをひとつ減らしてから、もう一個のルークをd8に突っ込む、というものでした。しかし、本譜のようにその侵入はBd4という手によって阻まれてしまいます。本譜の進行は
27...Bd4 28.Bd6 b4
[28...Rfe8?? 29.Rxe8+ Rxe8 30.Bxc5!+- これが僕の狙いでした。]
29.Re4 f5 30.Rexd4!
[ここではもうイコールです。]
30...cxd4 31.Bxf8 1/2-1/2

…となり、引き分けに終わりました。以下31…Kxf8 32.Rxd4 Rxc7 33.Rxb4 で、このエンドゲームはよほどのことが起きない限りドローです。
盲点
では、27.Ra7! 以下はどのようになるでしょうか。黒はc7のポーンをリスク無しに取ることはできないので、とにかくコネクテッドパスポーンを進めにいきます。

27...Bc3 (bポーンを進めに行きます。)
28.Re2 f5 (28...b4 29.Rb7) 29.Bd6 Rf7?! (図)
次の手が僕の読みから抜けていた手でした。

Analysis diagram 白番
30.Rea2!
ルークがd8に突っ込むことを中心に考えていた僕にとっての「盲点」でした。盤の反対側から黒陣に侵入するのが好手で、これで黒は大分困っています。以下30...Kg7 には 31.R2a6 から Rb6~Rb8 とやって、これは白が勝ちそうです。
満足のいく結果
結局念願の白番を引いたものの、IM相手に勝ちは奪えずドロー。生まれて初めて単身で乗り込んだ海外大会であるUnive Open(ウニフェ・オープン)を、4.5P/9 という成績で終えました。2005年に同じ大会に出場した羽生さんの5P/9 という成績に並ぶことは出来ませんでしたが、若手を中心としたオランダのプレーヤーと戦って、パフォーマンスレーティングは2222と満足のいく結果でした。
強さの秘訣
このオープンの優勝争いについても書いておきます。上位では安定した強さを見せていたアメリカのLenderman(GMレンダーマン)、ウクライナのNyzhnyk(GMニズニック)が、最終局にそろって負け、二人を倒した地元のGM、Tiviakov(ティヴィアコフ)とErnst(エルンスト)、そして新GMのVan Kampen(ファン・カンペン)が優勝となりました。

一番手前がGMレンダーマン
一方クラウン・グループで戦っていたアニッシュは、前半戦こそ苦しんだものの、5ラウンドで史上最強の女性プレーヤーJudit Polgar(ユディット・ポルガー)を白番で倒し、この大会で無類の強さをみせたKramnik(クラムニック)についで2位。地元の期待を背負って戦い、それに応えた形になりました。
厳しい戦いであったはずなのですが、チェスに触れているときの彼は常にいきいきして、とても楽しそうでした。それは昔(札幌にいたころ)から変わらないところなのですが、それが彼の強さの秘訣なのではないかと思ったりします。
ハーグ、アムステルダム観光
大会の次の日は、アニッシュと、サンジェーさん(アニッシュのお父さん)とともにオランダの首都、ハーグとアムステルダムを観光。
法律上はアムステルダムが首都なのですが、王室や国会など国として重要な機能はほとんどハーグにあるのだそうです。

女王様が公務を行うための宮殿。旗が立っていないので、この日はいないことがわかります。

ヨーロッパらしいきれいな街並みです。
ちなみにアニッシュほどの有名なGMが、街を歩きまわっても大丈夫なのか聞いて見ましたが、テレビのニュースにでた直後以外は大丈夫とのことでした(笑)。
オランダの首都は水の都

アムステルダムの街中で、コーヒーを売っています。

船にのってアムステルダム観光です!貿易を中心に発展してきたオランダの首都はまさに水の都です。

船から撮った写真です。
このあたりの住宅は、扉の大きさが大きくなるごとに値段が上がっていくので、狭く高い住宅になっているのが特徴です。ちなみに子供の乗っている船の奥に見える船は、人が住んでいるんだそうです!アニッシュも以前何かのトーナメントで船をホテル代わりに使ったことがあるのだとか(笑)。
海外大会は勉強の場
長いようで短い二週間の滞在を終え、アムステルダムを観光した次の日に、アニッシュに見送られてスキポール空港からモスクワ経由で日本に向かいました。

アニッシュがポルガー相手に最後の決め手を指す瞬間
僕はここ数年で幾つかの海外大会に参加しています。大学生なので時間があったということもありますが、日本で行われるトーナメントでは味わえないレベルの高さを、積極的に体感しにいくのが主な目的でした。今回のようにある程度満足できる結果を残せた大会もあれば、思い出しただけで落ち込むくらいひどかったトーナメントもあります。ですが今のところ、海外大会に出るたびに、何かを掴んで帰ってくることができています。
もちろんトーナメントは勝負の場です。同時に、僕にとって海外大会は、勉強の場でもあります。
序盤の綿密な準備や、その日のゲームの反省。強いマスターや若手のプレーを見てまわること。レベルもプレーヤー層の厚さも、今の日本とは大きな差があります。
またチェスだけではありません。日本語が通じない中で自分の意思を相手に伝えること、その国の文化や雰囲気を知ること、友人を作ること。そして何よりも違う国の人達との交流を通して、自分の国に対する理解を深めること。実際に大会に出ることで、様々なことを学べるでしょう。
僕はこの大会にでて、小学生プレーヤー、大学生プレーヤー、ベテランプレーヤーの他、地元のコーチやチェスファンの人たちと知り合いました。また大会中、試合が終わった後には運営の一人、Tom Bottemaさんとその息子さんの三人で、将棋を楽しんだりもしました。外部の大会に出ることには、レベルの高いチェスを経験するだけでなく、こういった楽しみ方もあります。

画家のフェルメールで有名なデルフトにて。
上達への一番の近道
技術に関していえば、上達への一番の近道もやはり大会に出ることです。
函館では年に一度大会が行われていますが、他にも、札幌で行われる大会や東京で行われる大会に積極的に参加することで、対局数を増やすことです。対局が終わったあとに、対戦相手とそのゲームを振り返ることが大事です。そして余裕があれば自分のゲームにコメントをつけてみることをおすすめします。
もちろん最初は簡単なものでかまいませんが、例えばChessbaseというデータベースソフトがあれば、この大会で僕がやったように(ホームページのゲーム参照)、英語でコメントや変化手順を入力することができます。ちょうど函館チェス大会も終わったことですから、忘れないうちに自分のゲームをもう一度振り返ってみてください。
一度大会にでる楽しみを覚えてしまえば、次の大会にむけてトレーニングする動機にもなります。それに向けて毎日チェスのトレーニングをするようになれば、日本の大会で上にいくのもそう遠い目標ではなくなるでしょう。
オランダでは小学生、中学生くらいの子供たちが大人のクラブプレーヤーと対等以上に戦ったりしています。今は函館チェスクラブでプレーしている君たちも、いつか彼らと世界で戦ってみたいと思いませんか?
あとがき
最後にこの大会に誘ってくださり、二週間色々面倒を見てくださった Sanjayさん、家族のように接してくれた Anish はじめ Giri 一家のみなさんに、心からお礼を申し上げます。
またこのレポートを最後まで読んでくださった読者の皆さん、ありがとうございました。不定期でアップしていき、結局大会が終わってから2ヶ月すぎての完結となりましたが、このレポートの情報によって、少しでもみなさんのチェスライフが良いものになってくれればと思います。
そしてこの旅行で出会った、全ての人達へ
Dank je wel! Zie je de volgende keer!
(さようなら、またお会いしましょう!)

[ PDF版
>>>
] [ 駒が動く [
Viewerチェス盤
] でご覧ください]